2012年4月8日
今回も前回に引き続き、実務の中で実際にあった相談事例を紹介させていただきます。事例を見ましょう。
相談者Aさんのお父様が平成19年5月に死亡しました。相続人はAさん、Aさんのお母様、Aさんのご長男(お父様と養子縁組をされています。)の3人です。Aさんのご長男は、平成18年9月頃からアメリカにある大学に2年間の留学中で、その間のご長男の生活費や教育費は、Aさんが日本から送金しています。お父様の相続財産の中にはハワイの別荘がありますが、これをご長男が相続する予定です。ご長男のように海外に住所を持つ者について、海外にある相続財産は課税されるのかという問題です。
回答は、相続財産として課税されます。以下、その根拠を見ましょう。
平成15年1月1日以後に相続又は遺贈により財産を取得した者については、その相続財産を取得した時に、相続税法の施行地(日本)に住所を持つ者(「居住無制限納税義務者」といいます。)である場合、あるいは法施行地に住所を持たないが日本国籍を持っている者で、その者又は被相続人等がその相続開始前5年以内のいずれかの時において法施行地に住所を持っていたことがある場合(「非居住無制限納税義務者といいます。)には、相続した財産の全部が相続税の課税財産となり、相続した財産の所在が海外であっても課税の対象となります。また、法施行地に住所持たない者(「制限納税義務者」といいます。)である場合には、相続した財産の内、法施行地にあるもののみが課税財産となりますので、海外にある財産を相続しても相続税の課税財産とはなりません(相続税法1条の3、2条)。なお、日本の国籍を持っている者が、相続により財産を取得した時において、日本を離れている場合であっても、留学、国外出張、国外興行等により一時的に日本を離れているに過ぎない者については、その者の住所は日本にあることになります(相続税基本通達1の3・1の4共-6)。この点は注意が必要です。相談事例では、上記留学に該当しておりアメリカにある別荘については、相続財産として課税されることになります。
平成15年時の改正前は、ご子息を留学させ国外に居住させる(一時的も含め)ことで相続税の租税回避が後を絶たず、改正に至りました。日本国籍を持っている子供が日本に住所を持っていない場合でも、被相続人が相続開始5年以内に日本に住所を持っている場合は、国外財産でも課税対象になりましたので、被相続人の要件までも法律でしばりを掛けた意義は大きいです。これによって、租税回避のスキームはまず壊滅されたといってよいでしょう。